アトピー性皮膚炎の起こるわけ

アトピー性皮膚炎は、アレルギー体質(アトピー素因)と、皮膚機能の異常がある場合に、いろんな悪化因子が加わって発症します。(図1)

[図1]アレルゲン、感染、掻破、ストレス。汗、乾燥などはアトピー要因(LgEを作りやすい体質、家族にアレルギーが多い)や皮膚機能異常(ドライスキン、セラミド不足、バリヤー機能低下)を発症させます。

皮膚機能の異常というのは、乾燥肌があって、バリア機能が落ちている、ということです。バリアというのは体を保護している力で、健康な肌はしっかり皮膚の細胞がつまって、表面は自分の脂でコーティングして、外からいろんな異物や病原体が侵入するのをブロックしているのです。ところが、アトピー性皮膚炎の患者さんの90%は乾燥肌です。無防備なかさかさ肌はちょっとした刺激にも敏感に反応し、すぐかゆくなったり赤くなったりかぶれたりします。(図2)よく掻き壊しからとびひになったり、みずいぼが広がったりするのも、バリア機能がおちた皮膚によくあることです。保湿剤を毎日塗って保護し、つるつる肌をつくりましょう。

[図2]アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能が低下している!正常な皮膚とアトピー性皮膚炎の皮膚との比較図です (清益功浩:アトピー治療の常識・非常識〜知ってなっとく!最新情報!医薬経済社 / 清益功浩: アトピーを正しく知って治す新常識 講談社)

バリア機能の落ちた皮膚に身の回りのいろんなアレルゲンが侵入し、アレルギーのIgE抗体ができてくることを「経皮感作」といいます。アトピー性皮膚炎の赤ちゃんに食物アレルギーを合併することはよくあるのですが、食物アレルギーがあるからアトピー性皮膚炎になるのではなく、アトピー性皮膚炎の皮膚状態の悪い状態が続くためいろんな食物アレルギーになっていく、ということが最近いろんな研究で明らかになってきました。生後2-3か月の早期からアトピー性皮膚炎をステロイド外用で治療すると食物アレルギー発症はないか、あっても軽くすみます。しかしステロイドを使わず半年以上もかゆいかゆい、ざらざらごわごわじくじくした皮膚が続く赤ちゃんの検査をすると、何品目も食物アレルゲンに反応が出ているということはよく経験することです。

湿疹があれば治療して早くきれいな状態にして、保湿をし、悪化因子が何かを分析し、のぞくことが大切なのです。(保湿、悪化因子はこのあと解説します)

スキンケアの重要性

乾燥肌がアトピー性皮膚炎の発症につながります。

皮膚のうるおいを保つには、皮脂(皮膚の皮脂腺から分泌される脂)、角質細胞間脂質(皮膚の表面の細胞のすきまを埋めている脂、レンガの壁のしっくいをイメージしてください)、天然保湿因子(皮膚の表層にある低分子物質で水分をほじする性質あり)の3つの物質が必要ですが、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚にはいずれもこういう物質が不足していることがわかっています。ですからそれを外から補うスキンケアが必要です。

スキンケアとは、皮膚を清潔にし、保湿をすることです。これは、治療ではなく、皮膚のケアで、バリアー機能を正常に保つことが目的です。それから、皮膚を刺激しない生活の工夫も必要です。

具体的には

  • 汗をかいたり、汚れがついたらすぐ落とす・洗う
  • 爪は短く切り、手も清潔にする
  • 衣類は吸湿性の良い、肌触りのよいものを選び、飾りは避ける
  • 髪の毛が額や首にかからないようにする
  • 赤ちゃんは、口の周りが、よだれやゆびしゃぶりで湿疹ができ、悪くなるので、よく口まわりをふいて、保湿剤をこまめに塗る
  • 1日1回は入浴し、石鹸を使って洗う
  • ただし、石鹸は洗浄力の強すぎないものを泡立てて、手でやさしく洗う
  • 入浴は熱いお湯であたたまりすぎないように短時間で
  • 入浴剤は合わないものもあるので注意
  • 入浴後に保湿・保護のための保湿剤を塗る

保湿剤は、白色ワセリンがよく使われますが、クリームタイプ、ローションタイプなどいろいろあります。とくに病院でもらわなくても、市販のもので気に入った使い心地のいいものがあればそれでもかまいません。ただ、たっぷり使うことが必要なことがあるので、値段の高いものはもったいなくてちびちび使ったりして効果がない場合もあります。

治療はステロイドが主 TARCとプロアクティブ療法について

皮膚がかさかさしているだけであれば、保湿剤だけでいいのですが、いったん赤くなったりじくじくしたり、湿疹ができてかゆいところは、炎症がおきて病気になっていますので、薬が必要です。

アトピー性皮膚炎は皮膚の病気ですから、薬は塗って治すのですが、これがむずかしいのです。飲み薬なら、1日2〜3回飲めば効くのですが、塗り薬はどの部位に、どの薬をどのくらい、どれだけの期間塗って、どうなったら次はどうしたらいいのか、ということがわかっていないと、患者さんは塗ってくれません。塗ってもとれてしまうこともありますから、1日何回も必要なこともあります。

こういう塗り方の指導をきっちりして、薬の内容をちゃんと説明しておかないと、患者さんは薬の塗り方が足りず、治らないということになります。たいていステロイド外用薬をもらうのですが、うまく塗れていないと当然効かないわけで、使い方が間違っているのに、ステロイドは効かない、塗ってもすぐ悪くなる、副作用がこわい、と大きな誤解を生んでしまいます。

ステロイド外用薬をぬってもよくならない、と来院される多くの患者さんは、塗っているステロイド外用薬が弱すぎる、あるいは量が塗り足りていないのです。副作用がこわい、と弱いステロイドを部分部分にちびちび使っていてもよくなりません。火事のときにコップで水をかけるようなものです。ステロイドは、飲み薬や注射で投与すれば、全身にいきますので副作用が出やすくなります。しかしたとえば、子どもによく処方されるキンダベート、ロコイド、アルメタというマイルドクラスのステロイド外用薬であれば、1日3本以上、1か月以上塗り続けなければ副作用はおこりません。そんなに塗っている患者さんはまずいないはずです。

ステロイド外用薬は、適切な強さのものを短期間塗ってよくすれば、減らしていき、やめることができます。最近では、TARCといって、アトピー性皮膚炎の重症度を示す検査ができるようになり、その値によってステロイド外用薬の強さや量を変えていけるので、治療がしやすくなりました。なかなかステロイド外用薬が切れない重症の患者さんには、タクロリムスという免疫抑制剤の外用薬を使うことができます。

チューブの場合、「大人の人差し指の先端から一つ目の関節まで伸ばした量(1フィンガーチップユニット:1FTU)」が、大人の手のひら約2枚分び面積に塗る量の目安になります。
1FTUの量はチューブの口径の大きさによって異なるため、1FTUによる塗る量はあくまでも目安です。

[図5]大人の人差し指の先端から一つ目の関節まで伸ばした量(1フィンガーチップユニット:1FTU)

TARCは、アトピー性皮膚炎の炎症の程度をしめす検査で、重症の患者さんはステロイドを塗ってよくなったように見えても皮膚の中にまだ炎症が残っているからぶり返す(再燃する)のです。湿疹がなくなりつるつるになっても、ステロイドのランクを減らし、塗る回数を減らし、炎症がなくなるまでコントロールするのが、プロアクティブ療法(図3)です。これをするには、根気よく、塗り方を説明・指導しTARCの数値によってステロイドを選択し、副作用の来ないよう定期的に使ったステロイド量を計算し、落ち着くまで何度も受診していただくので、患者さんも、指導するこちらも大変です。でも、あちこち掻いてじくじくで夜も眠れず機嫌の悪かった赤ちゃんが短期間でよくなり、ぶりかえさずに数か月するとあの皮膚どこに行ったの?みたいによくなります。当科では看護師が具体的な塗り方指導をしています。

[図3]リアクティブ療法(※ 症状が悪化した時のみ塗る治療)とプロアクティブ療法の図解です

いずれも、薬の内容、副作用の出ない量での塗りかたを理解していただくことが大切です。また、いったんよくなっても、保湿を続ける、悪化因子を除く、ということをやらないとまたぶり返しますのでご注意。(図4)

[図4]炎症部位にはステロイドを使用し、感想部位には保湿剤、感想防止の工夫をするなどして悪化因子を防いていきます。

新しい軟膏治療薬

アトピー性皮膚炎の治療の基本は、ステロイド外用薬が主軸というのは変わらないのですが、なかなかステロイド外用薬がきれない重症な患者さんには、タクロリムスという免疫抑制剤の外用薬を使うことができます。

最近は新たに2種類、コレクチムとモイゼルトという外用薬が使えるようになりました。
タクロリムスは使い始めに刺激感を感じることが多いのですが、これら2種類はそれほど刺激感なく使用できます。

また2歳以上に適応でしたが、コレクチムは生後6ヵ月から使えるようになりました。
さらによい点としては、眼の周囲の湿疹にはステロイド外用薬は長期に使うと眼圧上昇という副作用が心配されるので使用するのをためらうことも多いのですが、これらのお薬はその心配がないため使いやすいのです。

もちろんどのお薬も合う・合わないがありますので、受診の際には主治医に相談してくださいね。



SCCA2に関して

今まではアトピー性皮膚炎の重症度を示す血液検査としてTARCしかありませんでしたが、最近は15歳以下の子どもにおいて、SCCA2の測定が保険適応になっています。

重症のアトピー性皮膚炎の患者さんがステロイド外用薬を塗って、見た目がきれになった・よくなったと思える皮膚の中にも、まだ炎症が残っていることを示してくれる良い指標としてTARCとSCCA2があります。

TARCの指標の見方の難点としては2つあり、1つは年齢により基準値が異なること、もう1つは苔癬化といって見た目は赤みがないのですが肌がごつごつした状態で、この場合であると数値が異常値を示さず正確な把握が難しいことです。

苔癬化というのは、アトピー性皮膚炎の中でも重症度が高くなかなか治りにくいため根気強い治療が必要なのです。

SCCA2はこの苔癬化でも上昇をとらえることができるようです。

悪化因子はなにか、その対策

アトピー性皮膚炎の肌は乾燥して敏感で、すぐかゆくなります。皮膚に優しい環境をこころがけましょう。こんなことが皮膚を悪くします。対策も一緒に並べてみました。

  • アレルゲン →除去する

    食物の場合は食物除去(必要がある食品のみ期間限定で)、ダニ・ホコリは掃除、ペットは飼わない。

  • 掻破(掻くこと) →掻かない工夫をしましょう

    衣類の工夫
    パジャマのすそやそでをテーピングすることで、寝ている間の掻き傷を防ぐことができます。
    かゆみのある皮膚に、ざらざらした素材の衣類が直接触れないようにしましょう。ヒートテック、フリース、ごわごわした毛糸の手編みなどもかゆみを誘発します。
    寝るときの室温、寝具、衣類、氷枕
    寝るときがいちばんぼりぼり掻くことが多いのです。ひとつはからだが温まりすぎるから。室温は低めに、寝具や寝巻きもうすめで。寝つきが悪いときは、氷枕かアイスノンで首や頭を冷やしてやるとかゆみがましになります。冬は、スリーパーや厚めの寝巻きの着せすぎ、毛布や厚い布団の使用が悪化因子になりますので注意。
  • 感染(とびひ、ヘルペス、みずいぼ)

    いつもと違う皮膚症状が急速に広がるときは早めに受診し早期治療を。

  • 汗・汚れ

    汗はまめに拭き、帰ったらシャワー、よく洗い流す。
    赤ちゃんの口まわりのよだれはまめにふく。

  • 温まること

    温まるとかゆくなります。お風呂はぬるめのお湯で短時間ですませる、体が温まるような状況を避ける、からだを冷やすなど工夫が必要。

  • 乾燥

    保湿剤をしっかり使う。夏と冬では、種類を変えることもあります。

  • 衣類の刺激

    直接皮膚に触れる衣類は、やわらかく吸湿性のよい素材を選ぶ。

  • 髪の毛の刺激

    額や耳や首に髪が触れない髪型にする。

  • 石鹸、洗剤、シャンプー

    あまり洗浄力の強くないものを選び、よく泡立ててやさしく洗う。

  • ストレス

    かゆみは心理的な因子も強い。
    ストレスや睡眠不足、体調不良もかゆみや皮膚の湿疹を悪化させる。

アトピー性皮膚炎とのつきあいかた

アトピー性皮膚炎はいろんな原因が複雑に関係しているので、よくなるのに時間がかかりますし、一進一退を繰り返すこともあります。根気が必要ですが、アレルゲンを除去し、塗り薬を上手に使い、スキンケアを続けると、そのうちよくなっていきます。スキンケアと保湿は、日常生活の中でずっと続けることがおすすめです。

最近は、皮膚と炎症が強い状態が続くと、皮膚からいろんな物質が侵入し、食物をはじめとする様々なアレルギーが進むことがわかってきました。乳児でも早くにステロイド軟膏を使って皮膚状態を改善することが学会のガイドラインによって推奨されています。詳しくステロイド軟膏の塗り方を指導してくれる医師を見つけましょう。“脱ステロイド”は標準治療から大きくはずれたやり方で、科学的根拠がありません。

目標は、機嫌よく、よく遊び、よく眠れるという普通に子どもらしい生活ができることです。お母さんが食事作りや掃除に追われて疲れ果てていては、子どももハッピーではありません。優先順位を決めてやれるところから少しずつ続けていきましょう。

医療法人 創和会 かめさきこども・アレルギークリニックは豊中市(緑地公園駅近く)にある、小児科・アレルギー科の専門医です。

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