今月の独り言
肌荒れと体調を崩す
受診された患者さんに「どうされました?」と聞くと、よく返ってくるのが、「肌荒れがあって・・・」と「体調を崩しまして・・・」という文言です。
「肌荒れ」とは、国語辞典で見ると、{肌が荒れること、皮膚がかさかさになること}とあります。医者の感覚では、“乾燥肌”という受け取りをします。でも、どこですか?とその場所を診ると、湿疹だったり、とびひだったり、治療の必要な“皮膚の病気”のことが多いのです。それはそうでしょう、困って、なにか治療を求めて受診されているのですから。かゆみも痛みもないただの乾燥だったら、保湿クリーム塗って様子見、となりますよね。ですから患者さんのいう「肌荒れ」というのは、何らかの皮膚トラブル、ととらえたほうがよさそうです。よく「ぶつぶつができて・・・」というのもありますが、さあ、このぶつぶつが、湿疹なのか、発疹なのか、じんましんなのかは診ないとわからないし、どれかによって対応が異なります。ときどき診断のつかないぶつぶつで、皮膚科に紹介することもあります。
「体調を崩す」は、国語辞典では{体の調子を良好に維持できていない状態}とあり、まあその通りですよね。患者さんはそれで困って受診されてるのですが、医者の側としては、何がどう不調なのかを言ってもらわないと、診察もできません。それで、どこがどう悪いのですか?と尋ねることになります。足のここがいたい、とかおなかが痛くて下痢をしている、というようなことは初めからおっしゃることが多いのですが、なんとなく頭が重くて、とか最近食欲がなくて、とかあまり眠れなくて、という体調の崩し方だと、高血圧から脳腫瘍から胃潰瘍からうつ病まで、いろんな病気が考えられます。内科の先生は大変だなあ。実は小児科医は、子どもの体調が悪いのを親が見て連れてくるので、初めから「熱が出て・・」とか「咳がひどくて」とか、「下痢が続いて」とか具体的な症状を言ってもらえることが多いのでその分楽です。それと開業医で診る子どもの病気はかたよっていて、大半は感染症かアレルギーです。先天性の病気は早くにわかって専門病院で検査・治療を受けていることが多いし、悪性疾患や膠原病も開業医に最初に受診することもあるかもしれないけれど、ごくまれで、経過をみて診断がつかなければ病院に精査をお願いし、自分で診断・治療することはめったにありません。
その感染症・呼吸器領域では最近、いろんな病気がいっぺんに流行中です。溶連菌、インフルエンザ、マイコプラズマ、その他名前のつかない感染症。たくさんの患者さんの熱型表を見て、症状を聞き、診察して、必要な検査をそれぞれに選択して診断をしていきます。診断がつけば治療を行うか病気の経過をお話しするし、診断がつかなくても、どういう状態になるまで何に気をつけるかをお話しし、よくなるまで何回も診ます。何にせよ、ひとりひとりよくなると、ほんとにうれしいです。
マイコプラズマ流行中
気管支炎や肺炎を起こすマイコプラズマが流行中です。
小さな子には少なく、6歳以上が多いとされていましたが、今年は幼稚園児でも見られます。熱と、続くしつこい咳です。乾性咳嗽といって、あまり痰はからまず乾いた咳が長引きます。マイコプラズマは細胞壁をもたない細菌です。なので、一般的な細菌用の抗生剤、ペニシリン系やセフェム系は細胞壁合成阻害で抗菌作用があるので、これらは効きません。蛋白合成阻害薬であるマクロライド系やテトラサイクリン系が効果的です。細菌感染は、その病態が、何の感染かを見極めてそれにあった抗生剤を投与せねば意味がないのです。そもそも小児の感染症の90%くらいはウイルス感染で、抗生剤は効きません。
ウイルスは自分で生きていくことはできず、細胞内に入り込んで寄生して増殖します。なので、ウイルスの増殖を抑えるか、ウイルスの細胞への侵入を防ぐことによって抗ウイルス剤が作られますが、特定のウイルスにしか薬がありません。重症化するリスクがあるヘルペスウイルスや、大多数の感染がひろがるおそれのあるインフルエンザウイルスなどです。しかしこどもの発熱をおこす多くのかぜのウイルスには薬がありません。言い換えれば自分の免疫力・体力でしのぎながらよくなるのを待つしかないのです。
ちょっと熱が出たり続いたりすると、それがなんの感染か考えも調べもせずに安易に抗生剤を出す医者も多く、それでもよくならないと当科を受診する患者さんが最近多いです。40度熱がありのどが赤いねとセフェム系の抗生剤を3日分出され翌日には熱が下がった1歳児。のどをみると赤みのなくなった扁桃炎の所見。溶連菌だった可能性があります。溶連菌が検出されればペニシリン系10日間内服、が原則です。検査で陰性になっていたので薬は追加しませんでしたが。
マイコプラズマが流行中なので、ちょっと熱があって咳があるとすぐにマイコ用の抗生剤が短期処方される。それでもよくならない。マイコプラズマは耐性菌も増えているので、抗生剤の投与の順番があります。有効なら1週間は内服が必要です。ほんとにマイコだったのか、マイコだけど薬が効かなかったのかはあとからは判断が難しいのです。マイコの検査とかレントゲンとかちゃんとやってほしいなあ。たいていは気管支炎で終わり、薬が効けば熱は二日で下がり、咳は続きますが、家庭内安静で1週間くらいでよくなります。しかし先週は、レントゲンで肺炎もあり、最後のミノマイシンでもよくならず入院をした小学生もいました。熱が13日続いていました。
ちゃんと診察して、何が熱の原因か推測して検査を行い、必要なら投薬して、必ず、2~3日でよくなるか確認する、あるいはちゃんと親に病態を説明することを日々やっています。まるで探偵捜査のようですよ。
福井県立恐竜博物館
平日の休みに、福井県立恐竜博物館に行ってきました。
昔からの根っからの恐竜好きで、クリニックにも恐竜のポスターやフィギュアや本がたくさんあるのですが、恐竜博があると必ずでかけます。今回は日本最高峰の恐竜博物館に行ってきました。
「JRで行く恐竜博物館の旅」という、入場券と交通セット券のセット14000円、というのをJRの車内広告で見て買っちゃったのです。でも、いざ行くと関西からは遠い!特急サンダーバードで敦賀まで、北陸新幹線に乗り換えて福井まで、それからえちぜん鉄道で勝山市まで、市バスに乗って博物館へ。3時間半かかって到着。
でも見ごたえがあって、館内はいろんな種類のいろんな時代の恐竜の標本が50体も展示してあります。ティラノサウルスの精巧な標本が、動いてほえながらお出迎え。本物の化石標本や化石発掘品展示もあります。ずっと歩き回って見上げて、恐竜の名前を音読していきました。アパトサウルスなんて全長25mもあって、頭の先は天井近くみあげるほど。大人が立っても足の膝にも届きません。大きさが実感できるのがなによりいい。それとティラノを始め、何体も恐竜標本が動いて声を出すのが精巧につくられていて、ジオラマもあり、ホントにジュラ紀にタイムスリップしたようでした。わくわく。福井で発掘された日本固有の恐竜も6種類あって、フクイラプトルの標本もありました。化石研究体験教室もあり、参加する時間ありませんでしたがおもしろそうでした。
2億3000年前から6600万年前まで、長い時間をこんな大きな生き物が地上でたくさん生きていたんだなあと思うと感慨深いです。そして人間ホモサピエンスの歴史なんて、せいぜい40万年くらい。そしてもうすでに、自分らの文明で自然破壊による温暖化や環境汚染が進んでいます。ホモサピエンスはあと何万年も生き延びられるのでしょうか。いつも想いはそこに行きついてため息が出ます。