喘息の長期管理がなぜ必要か

気管支喘息とは、もともと気管支の粘膜に炎症があって過敏なところに、風邪や運動や冷たい空気などの刺激が加わって、気管支が収縮し、内腔が狭くなって空気が入りにくくなります。そこで息をするとぜいぜい、ひゅうひゅうという音(喘鳴ぜんめい)が聞こえて、分泌物が痰になってそれを出すために咳が出るし、空気が十分入らないと呼吸が苦しくなり血中の酸素濃度が下がります。問題は刺激が加わって発作になった時の治療だけでなく、もともとの炎症を抑える治療を続けないと何回も発作を繰り返すのです。発作のないときでも炎症を抑える予防の治療を長期管理といって、発作がない時期を3か月、半年、1年と続けて治療すると子どもの喘息は治っていくことが多いのです。

私が医者になった30何年前は長期管理薬のロイコトリエン受容体拮抗薬(モンテルカストやプランルカスト)やステロイドの吸入薬がなかったので、何度も発作をくり返して入院する喘息の重症の子どもたちに点滴をし、一晩中起きて発作用の吸入をさせることが仕事でした。今は長期管理薬ができて、喘息の発作入院は激減しています。

そういう長期管理をしている患者さんがこの前発熱があって救急外来を受診したら医者から、発作もおきてないのにこんな薬を何か月も続けてるなんて、と言われたそうで、親御さんはすっかり動揺してしまいました。おーい、こっちはその子が発作でしんどいときから1年以上もつきあってるんだよ、熱出しても発作にならないのはその薬が効いてるんだよ。通りがかりに診たくらいで喘息を知らん奴が余計なこと言うな!と思いましたが、相手もわからんし心の中で悔しい気持ちを叫ぶだけです。でも、子どもの喘息の治療の仕方はガイドラインという教科書にちゃんと明記してあるのです。3回以上喘鳴があれば喘息の診断で長期管理を始めること、1~3か月の経過で発作がなければ少しずつ薬を減らしていくことなどです。最近の若い先生は本当にひどい喘息の発作や長期管理のやりかたを知らないのです。せめてガイドラインで勉強してくださいねー。

先日初診で4歳の男の子が来ました。診察室に入ってくるその子の様子を見て私はぎょっとしました。まえかがみでよろよろと力なく歩き、椅子に座ると背中を丸め、両手を両ひざについてつっかい棒のようにしているのです。これは、呼吸が苦しくて効率を高めるために無意識にやる姿勢で、昔発作で入院した子はみなベッドに起き上がってこのポーズでした。案の定聴診すると明らかな喘鳴で痰も多く、血中酸素濃度も下がりかけています。聞くと、2年前から咳や苦しいのを繰り返し、月に2回くらいかかりつけ医に受診しているのですが、毎回プランルカストは数日とか1週間しか出ていないし、少しよくなると薬なしでいる。喘息といわれてはいるのですが、適正な重症度診断がされていなくて長期管理という発想がない!さいわいその子は気管支拡張剤を吸ってもらうと喘鳴が消失し、酸素も上がったので、お母さんに喘息の成り立ちと治療のお話をし、今の状態を乗り切るための気管支拡張剤の薬プラス、長期管理薬をしっかり入れて1週間後に予約で来てもらいました。すると2回目は背をのばしてにこにこと入ってきて喘鳴が消えていたのでほっとしました。でも治療はこれからなのです。長期管理薬を続けて、次に風邪をひいたときに喘鳴が出ないように気道のいい状態をキープしなければなりません。年単位になると思います。ちなみに発作を繰り返して気道の炎症が進むと、6歳になった時点で呼吸機能をしてみると、気道が固くなって広がらなくなり、リモデリングといって気道の閉塞した状態が続きます。そうなると喘息は治らず、成人になっても発作を繰り返すのです。昔は長期管理がなくそうなっていく子が多かったのです。

小さいころ喘息で通っていた子どもたちも多くはよくなって、何人も成人しています。大学院生や学校の先生やエンジニア、ピアニストになった子もいます。皆元気になって好きなことをやれていて本当によかったです。

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