今月の独り言
食物アレルギーは食べて治す
小児の食物アレルギーは年齢とともにだんだんよくなって食べられるようになることが多いのですが、どういうものをどのくらい、どんなふうに食べていくかは、専門医の指導が必要ですし、重症の患者さんほど、いろんな食品知識や食べていくための工夫が必要です。
何年もかかって、少しずつ食べていく治療(経口免疫療法)をしている重症の患者さんたちとは長いお付き合いをしています。週に3回くらい食べ続けなければいけないし、重症児はときどきアレルギー反応を起こすこともあるし、実は食べられるようになるために食べ続けることは、本人にとってもですが、お母さんをはじめとしたご家族も大変なご苦労です。途中でやめてしまう患者さんも少なくありません。まあ、食べられなくてもいいという考えもひとつです。
でも、赤ちゃんの時あんなひどかったのに!というお子さんが小麦、卵、乳と食べられるようになっていくと、本当に、君もお母さんも頑張ってるねえと表彰状をあげたいくらいです。食べられるようになっていく患者さんたちの共通点は、お母さんが熱心にもしくは淡々と続けてくれることです。週に3回、毎回食材を用意し、食べさせて2時間観察するのは日々の生活のなかで大変な負担ですし、ときに症状が出て救急に行くようなリスクもありながら続けていくのには、強い意志と、医療者との信頼関係も必要です。
T君は今9歳。乳幼児期は卵乳小麦のアレルギーがあり、除去をしていました。4歳の時うどん2.2gの負荷試験で咳と蕁麻疹がありました。でも半年後、同じ2.2gで症状なく、そこからうどんを増やして、1年10か月で小麦除去解除。6歳で卵黄から開始し、卵も増やし、8歳でかきたま汁やマヨネーズも摂取できるようになりました。乳がいちばん大変でしたが、7歳で、乳たんぱくのちょっと入った食パン超熟の負荷試験から始まり、8か月後には牛乳を開始できるようになりました。牛乳90mlでアナフィラキシーを起こしましたが、お母さんはひるまず、いったん量を減らしてまた増やしていき、2年かかって、とうとうこの春牛乳200ml飲むことができました。この間、症状が出たり、本人が怖がって食べたがらなかったり、お母さんは大変だったと思いますが、本当にまじめで熱心なお母さんで、やめることなくぶれることなく、何度も食べ方を相談に来られ、安全でやりやすいやりかたをともに模索した5年間でした。食べていくとアレルギーの検査値も改善し、とうとう給食はこの秋には除去解除にできそうです。エピペンももう不要ですね。
食べたがらない、怖がって嫌がる子どもたちも、医者である私が説明して励ますと、食べるのに挑戦してくれることもあります。子どもたちやお母さん、ご家族の立場に立って、食べていける、よくなる食物アレルギーの治療にとりくんでいます。みんな、がんばろうね!
STAY HOME
大型連休に入りました。緊急事態宣言も出されて、新型コロナの感染は大きく社会を変えています。無症状の感染者が多く、知らないうちに感染を広げているので、とにかくSTAY HOME、おうちにいて感染の機会を社会全体で減らして、蔓延を防ぎましょう、ということです。収束に向かうにはもっと時間がかかりそうです。一方で、軽症と思っていても、突然症状が悪化し、死亡に至ることがあるとわかってきました。まだわかっていないことの多いウイルスです。
今一番心配なのは、最前線の医療現場の状態です。患者は増え、重症が増え、病床は満杯になり、医師や看護師らは、十分な防護設備もないまま、緊張状態のまま使命感・責任感のみで重労働を強いられ、危険な現場でも多くは特別な手当もありません。欧米に比べて、医師や看護師、ICU病床も少なく、それは平常時に衛生状態もよく、国民の病気がなんとか想定範囲内に留まっていたからで、こういうパンデミックなウイルスは医療現場を崩壊させるのです。もっと現場に手厚い支援と感謝をしてほしい。家族への誹謗中傷もやめてほしいです。
こういうときに政治の力が試されますが、今のこの政府はなんだ。緊迫感・生活実感がない。会社や店に休業を言い渡すなら、休業補償・家賃の負担・無利子無担保の貸し付けなど、早急にやるべきでしょう。収入減少家庭に30万円支給としながら、すったもんだで全員10万円支給に変更。政治の道具とせずに、社会経済の一番有効な方法をちゃんと選んでほしい。国民全員にマスク2枚配布というのも、あいた口がふさがらない。どうも首相近辺の秘書官のアイデアに首相が乗ったらしいです。マスクが足りないのは事実ですが、みんなにマスクを配布したらありがたく国民が団結するなんて、馬鹿にしちゃいけない。200億円ものお金、医療現場や経済政策に回すべきで、国民もマスクが足りないならそれなりに工夫して作ったり洗って再生したりしてるじゃないですか。各自治体の長たちの決断や政策を見ていると、こういうときに政治家の力が出るなあと思います。
私はテレワークも在宅勤務もできないので、相変わらず通勤して診療をしています。JRは通勤者が激減し、三密の状態はほとんどありません。でもどこで自分やスタッフが感染するかわからないので、できるだけの予防対策をしています。保育園も学校も休みになって子どもたちが家にいるのは、ほんとうに親御さんたちには大変ですがここにきて、子どもたちに病気がないなあと気づきました。この春は、インフルエンザも早く終わったし、熱を出すような風邪も、春先の感染からくる喘息発作もすごく少ない。集団生活がなくなり、皆さんうがい手洗いマスクしているので、ほかのウイルスの流行がないのです。発熱外来もしていますが、あまり申し込みもありません。内科の診療所は、どこで大人の感染者が混じりこむかわからないので大変だと思いますが。
心が折れそうになりますが、家族で、友人で、みんなで励ましあって、この難局を乗り切りましょう。今でしかできないことを探してやってみましょう。
春はきたけど
3月も終わりになり、桜の開花や卒業、進学、新学期の、本来なら春の心躍る季節なのに、新型コロナの蔓延のおかげでなんとも気の重い毎日です。
突然の休校から春休みに至り、家で過ごす子どもたちや親たちは、ずいぶんストレスが溜まっていますね。でも受診する皆さんに聞くと、上手に家での時間を普段できない遊びや勉強に使っているご家族もいて、お父さんやお母さんの子どもたちへの向き合い方に感心することも多いです。家でしかできない、家族でしかできない過ごし方、各ご家庭で考えてみませんか。
感染の予防には、手洗い・消毒です。そして、密集した、換気の悪い、人同志の接触の近い環境を避けること、ずっと報道されているとおりです。この時期、検査結果の説明や食物アレルギーの食べ方の指導など、子どもたちの診察に加えて親御さんたちとのお話が多くなるので、当クリニックでも感染予防に気を使っています。患者さんたちもこの時期あまり病院に行きたくないでしょうが、アレルギーの管理指導表はいるしねえ。でもずいぶんよくなって、除去食解除も多くなり、うれしいです。花粉は今年は少なく、休校のせいか、外にいる時間も減っているのか、花粉症の症状は軽めです。
世界的にパンデミックになってしまった今、どういう風にコロナが日本で変化していくのかまったく見通しが立ちません。でも皆さん、自分でできること、子どもたちにしてあげられることを地道に続けて、本当の春がくるのを待ちましょう。