今月の独り言
秋です!喘息と肺炎の季節です
大きな台風が過ぎ去り、秋分の日も過ぎ、だんだん秋めいてきました。
そうなると私たちは忙しくなります。9月になって急に朝夕涼しくなったので、9月の第2週くらいからてきめんに喘息発作が増えました。もともと風邪をひくと喘息がちょっと出る、というような間欠型で、長期管理薬(喘息予防の薬)を飲んでいないお子さんはもちろん、長期管理薬をずっと使っていても発作が出やすくなります。発作治療薬(気管支拡張剤)を短期処方するとともに、長期管理薬を開始する、あるいは追加・増量する、ということが必要になります。午前中の小児科の外来は、吸入・吸引してそのあともう一回診察、という患者さんが多く、なかなか進みません。看護師さんも大忙し、吸入用のマスクがたりなくなって急遽買い足しました。
風邪も増えてきました。喘息発作や、乳児には呼吸不全をおこすRSウイルスも、普通は秋の終わりから冬にかけて流行するのですが、今年は夏の終わりから増えてきて、喘息のある0-1歳の児が何人かRS感染で入院しました。RSではないけど、咳のひどい風邪(おそらくライノウイルス?)も流行っていて3歳以上の幼児たちもけっこう1-2週間咳がひどいです。
9月は今までに当外来から9人が入院しました。これは普通の小児科からくらべると多いと思うのですが、当科はアレルギー専門なので喘息児、および喘息になる体質のある乳幼児の患者さんがもともと多いせいだと思います。それから、初めは普通の風邪で近くの小児科で薬をもらっても、3-4日でよくならないと当科を受診する患者さんも多いのです。本当は、初めに出した薬が効かずに症状が悪化していれば医者はなぜだろうと一生懸命考えて診察して、それが勉強になるので、もとの小児科に行ってもらったほうがいいのですが、患者さんは、よくならなかったら当科に、と決めていらっしゃる方も多く、自然、重症児や合併症の出てきた患者さんが増えます。話を聞いて診察しながら、数分の間に頭ではものすごく急いでいろんなことを考えていて、可能性のある診断や、必要な検査や、お母さんに話さねばばらないことなどをぱぱぱぱぱとチェックしているので、気楽にやっているように見えるかもしれませんが(?)、なかなかこれでも大変神経を使う責任ある仕事なのです。
いますぐ悪化しなくても、今夜・明日はどうなるかわからないのが小さい子の病気の怖いところです。RSの赤ちゃんで二日後に受診したらチアノーゼがあったので急いで処置して酸素を吸わせながら救急車で病院に搬送しましたが、若いお母さんは、赤ちゃんが悪くなっていることがわからないようでした。でも、そうやって子どもの病気を一つずつ見て、考えて、心配して親になっていくのだと思います。がんばれ、お母さん、お父さん!
皮膚をよくして食べて卵アレルギーを予防する
今年の夏はあっという間に過ぎて、気がついたら八月が終わっていました。
開業11年目にして初めて1週間の夏休みをもらいました。海老島先生が来てくれたので余裕ができたのです。あれもしようこれもしたいと思いながらなにもできずに終わってしまいましたが。去年地震で被災した熊本の実家はとうとう取り壊しになり、ちょっとつらい夏でもありました。
さて、最近小児アレルギー学会から、鶏卵アレルギー予防に関する提言、というのが出されました。乳児のアトピー性皮膚炎では、かなりの率で卵アレルギーが発症します。実際に食べてアレルギー反応が出れば卵アレルギーなのですが、血液検査で卵のIgE値がちょっと上がっているだけでも、食べたらアレルギー反応が出るかもしれないから、やめておきましょうというのが20年来の考え方でした。しかし最近わかってきたことは、皮膚状態が悪いとバリア機能が低下して、経皮感作といって、皮膚からアレルゲンが入ってIgE抗体を作るということです。そしてそれが本当に食べてアレルギー反応をおこすかはまた別だということです。
最近日本から出た研究が世界的な雑誌に載りました。生後4-5ヶ月でアトピー性皮膚炎のあった乳児を、皮膚の治療をしながら、60人には生後6か月から毎日、微量の加熱卵を与える。別の61人は卵を与えない。そして1歳になったところで卵半分の負荷試験をすると、卵をずっと与えていた群では8%の子が卵アレルギーだったのですが。食べさせていなかった群では38%が卵アレルギーでした。つまり、食べさせたほうが卵アレルギーは予防できる、という結果だったのです。
これを受けて学会は、「乳児期のアトピー性皮膚炎のある子は」「皮膚の治療をしてよくなってから」「6か月から少量の加熱卵(ゆで卵白0.2gくらいだそうです)を毎日」「与えることで卵アレルギーを予防できる」という提言を出したのです。もちろん卵を与えて症状が出た子は対象になりません。
しかし実際にこういう指導が一般小児科で責任もってやれるかどうかというのが心配されていて、どうなっていくのか、次回の学会で論議になりそうです。
感作イコールアレルギーではない!という話
アレルギーの病気は、IgEというたんぱく質がカギを握っています。何かが体のなかに入ってくると、アレルギー体質のひとは、敏感にそれを感じて、それに対抗する抗体という物質を作ります。普通の、細菌やウイルスに対抗する抗体はIgGやIgMといって体を守るほうに働きますが、アレルギーの抗体はIgEといって、食べ物やほこりや花粉など、身近なものに作るので、それによってかゆみや鼻炎やぜんそくが出るので困りものです。
IgE を作って持っていることを「感作されている」といいますが、アレルギーの病気の難しいところは、感作されているからと言って病気とは限らないことです。花粉に感作されていても鼻炎の症状がないひともいますし、多いのは、食物に感作されていても別に食べても症状がない、つまりそれの食物アレルギーとは限らないのです。
食物アレルギーの考え方は、この10年でずいぶん変わりました。昔は、アトピー性皮膚炎の患者さんがある食物に感作されていると、その食物アレルギーだということで食物除去をしていました。でも最近わかってきたのは、食べていないと本当に食べて症状の出る食物アレルギーになっていく、食べさせたほうが食物アレルギーは発症しない、またアトピー性皮膚炎は食物のせいでおこるのではなく、皮膚に湿疹が続いてバリア機能が悪いために皮膚からいろんなものの感作が起こる、ということです。世界中でそういうデータがつみかさねられてきました。専門医は、関連の学会や研究会に参加していると、そういう話を聞きますから論文を読んで勉強して、自分の診療も変えていかねばなりません。
最近初診の患者さんで、食べていた卵を、感作されているからといって除去するように医師に指示され、何年も完全除去をしてきた子がいました。脱ステロイドといって湿疹を治す治療はいっこもしない皮膚科でわずかに感作されているからと5歳にもなるのに卵と小麦の完全除去を指導されている子もきました。
赤ちゃんのときに本当の食物アレルギーで症状があっても、成長とともに治っていくことがほとんどです。私たちアレルギー専門医の仕事は、本当になおりにくい食物アレルギーの患者さんに、負荷試験をして、安全に食べられるような食べ方の指導をすることです。
お願いだから、食物アレルギーでもないのに、食物除去を安易に指示しないでほしいなあ!安易な「やめておきましょう」を言うのは簡単だけど、あとで大変なのは患者さんと家族なんですから。食べられるようになるまでちゃんと責任もって指導してほしい、なんていっても無理か。
今の最新の治療は、「さっさと皮膚をつるつるにして、なんでも早くから食べる!」なのです。アレルギー科と看板がかかっていても、専門医でないことが多いですから、治療や指導に疑問があったらよくその先生に質問してくださいね。