今月の独り言
夏風邪に負けるな!
梅雨空がすっきりしません。季節はもう夏です。
小児科の外来は、この1か月夏風邪が増えています。特に手足口病が多いです。今年の手足口病は手のひら足の裏だけでなく、うでにもふとももにもぶつぶつが広がり、それが茶色いかさぶたになってなかなか派手な病気です。これは数年前からですが、手足口病もウイルスが進化(?)しているのかも。
夏風邪は、ウイルスによる流行性感冒ですが、ウイルスの種類によって症状が異なり、名前がいろいろです。のどだけ真っ赤でぶつぶつがあって高熱が出るのはヘルパンギーナ。そうかと思っていると手足に水ぶくれのようなぶつぶつが増えると手足口病。熱に加えて目が真っ赤になって結膜炎をおこすものはプールで感染することからプール熱。昔からの病名ですが、原因ウイルスがはっきりすれば、なんとかウイルス感染症といったほうがいいかもしれません。
夏のウイルスは、高熱を起こすものが多いです。39-40℃が少なくとも1~3日。アデノウイルスでは5日から1週間続きます。朝は下がって夜に上がる、というぎざぎざの熱型になることが多いです。熱はしんどいですが、ほかに症状がなく、子どもは比較的元気です。我々小児科医は、症状が続くと、必ず、合併症はないか、ほかに悪い病気ではないかと考え、診察をし、いろんな検査をしますが、ほんとにしつこい夏風邪は、熱だけで1週間続いたりします。大丈夫だと思っていても何か見落としはないかと心配で、気をつけることをお母さんにお話しして、こういう症状があればまた来てね、こうなったら夜でも救急に行ってね、と言います。ウイルス感染は時々、突然悪化する心筋炎、脳炎など合併症があるので油断がならないのです。
熱が数日続いても、食欲があって、遊んでいて、眠れていれば大丈夫。熱の記録をつけて、3日以上続くか、心配な症状があれば受診してくださいね。
アレルギー教室始めます!
アレルギーの病気の治療をするには、患者さん自身、子どもの場合には保護者の理解と協力が必要です。医者が出した何かの薬を毎日飲みさえすれば病気が消える、というものではありません。特にアレルギーの病気は体質に基づく慢性疾患なので、薬だけでなく生活習慣や衣食住の生活環境にも気をつけなければならないし、長期におつきあいしなければなりません。それには、どうして病気が起こるのか、何が悪化させるのか、それを避けるにはどうしたらいいのか、という知識が必要です。
当科はアレルギー専門の小児科ですから、初めて来院された患者さんには時間をかけてお話しすることにしています。どうして今こういう症状が起きているのか、どうすれば治っていくのか、そのためにどう環境の調整をするのか、薬をどう使うのか。いろいろお話すると、初めて聞いた方が多く、「目から鱗!」というお母さんもよくいらっしゃいます。ただ、ひとりひとりの患者さんに割ける時間は限られていますので、私たちはよく集団指導、というのを利用します。患者さんに何人か集まっていただいて、お話をするのです。
当クリニックでも、10月から「アレルギー教室」を始めることになりました。アレルギー専門の病院ではたいていどこも、患者さん向けに教室や勉強会を開いており、前にいた済生会中津病院でも20年前に、末廣豊先生と私で教室を始めました。患者さんやお母さん方から好評で、11年前クリニックを開業した時も最初は教室をしていたのですが、医師ひとりで診療が忙しくなると大変になって、時々になり、ここ数年はまったく開いていません。
昨年海老島先生が仲間になってくれて、看護師さんも増え、特にアレルギーエデュケーターといってアレルギー専門の医療者の資格をもった看護師も来てくれました。患者さんも増えていますし、熱心なお母さんお父さんも多いので、また教室を始めることになりました。病気はなぜ起こるのか、治療はどうするのかを中心に詳しいお話をして、あとは患者さんからのどんな質問にも答えます、のコーナーになります。気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーについてそれぞれ計画していますので、夏ごろには皆様にお知らせできると思います。どうぞご期待ください。
経口免疫療法は慎重に
食物アレルギーは乳児期に多くて、成長とともに食べられるようになることがほとんどですが、当クリニックのように専門にしていると、重症の患者さんがたくさんいます。2-3歳になっても検査値が高いとか、ちょっと食べても症状が出る患者さんは、計画的に少しずつアレルゲン食品を摂っていく「経口免疫療法」という治療をします。いまのところ、重症食物アレルギーを治すにはこの方法しかないのですが、ちょっと間違うとアナフィラキシーになることもあるので慎重にしなければなりません。最近ちょっと思い違いをして失敗をした患者さんが続きました。
1)小麦アレルギーが強い3歳。ゆでうどんの負荷試験をして、うどん1cmから、週3回食べて少しずつふやしていったのですが、7cmをこえると咳がでるので、7cmで維持していました。ちなみに週2~3回は食べ続けないと、間があくと症状が出ることがあります。忙しくて忘れていて食べるのが三日あいているのに気付いたお母さんが、うどん屋さんに入って5cmのうどんを食べさせたらいきなりアレルギー症状が出ました。実はそこのうどんは乾麺で、いつも食べているゆでうどんより小麦タンパク量が多かったのです。いつも同じもので継続しないといけません。
2)乳のアレルギーのきつい患者さんには超熟というマーガリンしか入っていない食パンから開始します。1枚食べても乳タンパク2.2mgなのです。乳タンパク量を測定した食品表があって、それを見ながら少しずつ乳タンパク量を増やしていきます。お菓子などで130mgくらいまでやっと乳タンパク量が増えた3歳のお子さん、何を思ったかお母さんが牛乳30ml入ったパンケーキを子供に食べさせてアナフィラキシーになりました。実は普通の牛乳のタンパク量は3.6%なので、1mlの牛乳では約36mgの乳タンパク量になります。いきなり1080mgの乳タンパクが入ったのですね。お母さんの勘違い。あせらないでね。
3)卵は、加熱の具合で食べられるか食べられないかが大きく影響されます。はじめは卵の少し入ったスナックパンやクッキーなどを少しずつ増やしていくのですが、これらのものは200℃でよく火が通っています。揚げ物も、ころもに卵を使いますが、200℃で揚げてあるので大丈夫。しかし、ハムやソーセージなどの食肉加工品は、よく卵白が入っているのですが、蒸したりいぶしたりして作るので、火の通りが悪いのです。ロースハムって普通そのまま食べますが、念のために最初はフライパンで焼いてね、1/8枚から8回にわけて少しずつ増やして1枚にしてね、とお話ししています。先日5歳のお子さん、ロースハムを初めは1/4枚焼いて食べてどうもなく、2回目をお母さんが1/2枚、それもそのまま食べさせてアレルギー症状が出ました。増やす量も多いし、いきなり生で。
このように、アレルゲンの性質を知らないと症状が出ることもある経口免疫療法です。もちろん、適当に食べていってもどんどん倍倍に増やしても、何も起こらない患者さんもいます。それぞれの患者さんに対応した食べ方の計画が大切な治療法なのです。