今月の独り言
喘息もアトピーも治そう!
9月になって朝夕の冷え込みが始まると、喘息発作のシーズンです。今年も第2週目からかぜひきさんや発作を起こした子がどっと増えました。うちのようにたくさんの患者さんを診ていると重症の方も多く、抗ロイコトリエン剤を飲み、ステロイドの吸入をしてきっちり予防していても、風邪をひいたり運動したりすると大きな発作になります。9月には4人も喘息発作で紹介入院していただきました。何度も入院したことのある子ばかりです。入院は大変ですが、外来で薬を増やして、家で飲み薬も吸入もマックスにやってもよくなる傾向がなければ、入院して集中的に治療したほうが早く楽になります。体内の酸素が減ってきたら悪化の兆候ですから家でがんばるのは危険です。しっかりよくして退院したらまたいちから治療に取り組みましょう。どんなにひどくてもちゃんと治療していれば、子どもの喘息は、大きくなるとよくなっていきます。前にここで書いた、剣道をやってるK太郎君もなんど入院したことでしょう。一番の先輩は昨年大学院を卒業して就職したT君、10回以上喘息で入院しました。4歳のころ半年間入院して治療をした女の子は大学を出て図書館の司書さんをやっています。主治医は、本人とご家族のマラソンの伴走者みたいなものです。今は喘息の治療で日々大変でも、必ず楽になる日は来るので、それまでなお母さんやご家族に寄り添い励ましたいといつも思っています。。
喘息でもアトピー性皮膚炎でも、アレルギー専門でない医師の多くはあまりはっきり診断名をいわないようです。たしかに、子どもの場合はかぜをひいてぜいぜいするだけで喘息でないこともあるし、かさかさしてかゆくてぽりぽりかくだけではアトピー性皮膚炎でないこともあります。診断は難しい場合がありますが、でもどちらもちゃんと診断基準があり、治療のガイドラインがあるのです。ちゃんと診断の根拠を示して病名を告げたほうが、ご家族も覚悟を決めて、ちょっと時間のかかる治療に気長に取り組むことができます。発作のない毎日、かゆくない毎日にして病気自体をよくしていったほうがいいと私は思います。喘息とかアトピー性皮膚炎とかいうと、一部のお母さん方は、ショックを受けて、「だって治らないんでしょう?」と悲痛な表情。そういうイメージなんでしょうか、一般には?私ら小児科のアレルギー専門医は、喘息もアトピー性皮膚炎も治るぞ、治そう!と思って日々診療しているのですけどね。
つらい夏でした
夏休みもいよいよ終わり。最近は、8月の最終週から始まる学校や幼稚園も多くなり、実はお母さんたちはほっとしているかもしれません。
夏休みでも学校の先生はもちろんずっと休んでいるわけではなく、研修や勉強会など、子どもたちの授業に追われる日常ではできない仕事もあるようです。この夏は、豊中市の公立の小学校と、中学校の研修に講師として呼ばれて、食物アレルギーのお話をし、エピペンの講習もしてきました。
エピペンが保険適応になって普通に処方できるようになると、食物アレルギーのある子どもで、万が一誤食できつい症状が出る可能性がある場合や、学校行事で宿泊がある場合は、エピペンを持っていくのが普通の治療になってきました。注射なんて医療行為、学校でしなくてもいいじゃないか、というのが一般の学校現場での雰囲気でしたが、一昨年学校給食の誤食で小学生が亡くなった事例があったのをきっかけで、先生方が危機感を持ったり、関心が高まったりしてずいぶん雰囲気が変わってきました。あちこちでエピペンの講習会が開催されたり、校長先生や養護の先生だけでなく全員の先生が、食物アレルギーの話を聞きたい、知識を深めたい、といってくださるようになったのは本当にありがたいことで、食物アレルギーの子どもたちを守る力になると思います。
アレルギーだけでなくなんでもそうですが、知らない、知識がない、正しい対処法を知らない、というのは不安で、不安があると正しい対処はできません。世の中に怖いこと、考えたくないこと、知りたくないこと、できれば目をつぶってないことにしたいことっていろいろあるのですが、やはり、実際に我が子や自分の生徒のことであれば、向かい合うしかないのです。
この夏は、夏休みの初めから、小学生の女の子が中年男性に誘拐され監禁されたり、女子高校生が同級生を殺害したり、継父から虐待され自殺を強要された中学生の男の子が首をつって自殺したり、最後の方では自然災害で多くの子どもたちの命が奪われたり、小児科医としてはほんとにつらい夏でした。これも目を背けることなく、小児科医としてできることをして、なんとか子どもを取り巻く環境を改善していかねばならないということです。また新たな課題をつきつけられた気がします。
剣道のK太郎君
今朝診療開始前に、クリニックに電話がありました。
「先生、K太郎が、剣道の全国大会で3位になりましたよ、家内が先生に知らせてっていうので!」。乳児喘息で、小さいころ何回も病院に入院を繰り返したK太郎君のお父さんからでした。3年以上もお会いしていなくて、K太郎君は今年小学校6年生です。彼が初めて中津病院に入院したのは1歳前でした。年末の小児病棟で酸素マスクをつけながら吸入している小さな息子のそばで、心配で不安な様子のご両親の顔を今でも思い出します。それから5-6回も入院したでしょうか。いつも主治医をしていた私は、つかまり立ちをし、歩きだし、K太郎君の成長発達していく日々につきあい、喘息の治療に励んだ一家とともに彼の成長を楽しんできました。でも、乳児喘息の子どもたちは重症であっても、ちゃんと治療をしていれば、ほとんどは成長とともに治っていきます。K太郎君も幼稚園に行き始めるころには発作も減り、薬を減らすことができ、学校に入るころには薬なしでもほとんど発作がなくなりました。有段者のお父さんにならって剣道を始めたのもそのころです。
小児科医のジレンマですが、子どもたちは成長とともに病気が治っていくと病院に通う頻度が減り、だんだん会わなくてよくなるので、ほんとはいいことなのですが、ちょっと寂しいのが本音です。K太郎くんともほとんど会わなくなっていたのですが、剣道をすごくがんばっているのは知っていました。彼の今回の成果は、あの小さかったころを知っている私には何よりの朗報でしたし、同時にご両親の今までのご苦労や、彼にそそぐ愛情の奥深さに改めて敬意を表したいと思いました。そして昔の主治医にわざわざ知らせていただいたことを感謝したいと思います。小児科医にとっては何よりのごほうびでした。